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麺匠のプライド Pride of the Noodle Master

「船崎うどん」の伝統の灯を守る 麺匠、犬塚康彦の横顔
Yasuhiko Inuzuka, the noodle master who preserves the ”Funasaki Udon” tradition.



「日本の五島うどん」から「世界の五島うどん」へ

 物腰の柔らかいこの人の手は、何十年にもわたって小麦粉を練り上げてきたせいか、ゴツくてたくましい。
 祖父の代からの家業、うどんづくりを5歳の頃から手伝っていたので、麺づくりの経験は、かれこれ60年にも及ぶ。
 地元の県立高校を卒業し、島を離れて福岡の船会社に就職。1年間、タンカーの乗組員を経験したのち郷里、上五島に戻り、犬塚製麺所2代目の父、治郎に、うどんづくりを一から学ぶ。30歳のとき、その父が町会議員に転身したことを機に3代目を継いだ。
 経営が軌道に乗り、昭和と平成時代に2度、工場を拡張。年々、うどんづくりを営む製麺工場が廃業に追い込まれていく中で、五島うどんの発祥地といわれる「船崎うどん」の伝統の灯をひたすら守りつづけている。
 「今まで何とかやってこれたのは、先輩や仲間の職人たちが一所懸命がんばっているお陰だからさ」。
 小さな島で製麺業を営むにあたって、苦労は人一倍大きかったにちがいないが、控え目な人柄を映して、自らの足跡について多くを話さない。

 今や、確かな品質基準を誇る最高級ブランドに成長した五島手延うどん。島に生きる「麺の達人」が、その魅力について語る。
 「五島うどんは、その日の温度と湿度によって仕上がりの状態が左右されるので、毎日、うどんと対話しながら、水と海塩の加減を細かく調整している。手延べという手間と時間をかけて作り上げる五島うどんの魅力は、きめ細かでモチモチとした食感と、独特なコシの強さ、喉ごしの良さに尽きる、と僕は思う」
 平成30年6月、現在、10人の麺匠でつくる五島手延うどん協同組合の代表理事に就任し、現在3期目を務めている。明日の五島うどんを担うリーダーの一人だ。
 「一昔前までは島の中だけにしか流通せず、食通の間で『幻のうどん』と呼ばれていた五島うどんだけど、多くの先輩たちが苦労して、今では日本三大うどんの一つに数えられるまでになった。その志を受け継ぐわれわれも、現状に満足することなく、次は『日本の五島うどん』を『世界の五島うどん』にするという大きな目標に向かって挑戦を続けていきたい」
 五島うどんの将来を語るとき、それまでの穏やかな表情が一転、麺に向き合うときに見せる真剣な眼差しに変わった。

 一通りインタビューを終えたところで、趣味は?と尋ねると、どうやら、アベレージ90台のゴルフであるらしい。
 だが、「みんなに遊んでばかりいると思われたらいかんからさ、スポーツと言っとかんばやろか」と照れ笑いを浮かべた。

(取材・石田雅博)


 犬塚康彦(いぬづか・やすひこ) 昭和32年3月、長崎県・新上五島町生まれ。趣味はスポーツ。


 The hands of this gentle-mannered master were tough and sturdy, probably because he had been kneading flour for decades.
He has been helping his grandfather make udon, the family business, since he was 5 years old. Indeed, he has 60 years of experience in making noodles. "Thanks to the hard work of my seniors and fellow craftsmen, I have managed to make it this far," he says.
The hardships of the noodle-making business on a small island must have been difficult ones. For his modest personality, he does not talk much about his footsteps as yet.

 Goto Udon has grown into a top-quality brand with solid quality standards. A "Noodle Master" on the island conveys its appeal "The finished condition depends on the temperature and humidity of the day, so I talk to my udon every day to fine-tune the water and sea salt. The appeal of Goto Udon, made with the time and effort of hand-pulling, comes with its smooth and chewy texture, its unique firmness, and its smoothness".

Profile
Yasuhiko Inuzuka
Born in Shinkamigoto-cho, Nagasaki Prefecture in March 1957
His hobby is exercising.

(各ページ英訳・久野えり子)